もう一つの標識調査
衛星追跡調査について

 バンディング(鳥類標識調査)は。渡り鳥の渡り経路や野鳥の寿命を知る事が出来るとされています。バンディング問題のテーマの一つ「野鳥の渡りの調査と保護」についての一方法がこの文章のテーマです。
 渡りの調査に新しい方法が出てきているのに、何故かすみ網のバンディングをしているのかとか、渡りを調査すると言いながら、渡り鳥以外の野鳥を大量に捕捉していることへの疑問。ボランティアに大きく依存する、鳥類観測ステーションて何なんだろうという、多くの疑問を解決してくれる可能性を衛星追跡調査に見出せるような気がしたからです。
 野鳥の保護について成果を出していると説明されるケースを確認してみました。
 以後、説明の都合上、標識調査を二つに分けて説明します。1旧タイプの標識調査、2新タイプの標識調査(もう一つの標識調査)です。


1.旧タイプの標識調査とは

  かすみ網を使い、野鳥を捕らえ、野鳥の各部を計測し、金属の足環をつけて放鳥し、移動先で、再び、かすみ網で生きたままで回収するか死体で回収し移動先(国内・国外)を確認する。いわゆるバンディングといわれるタイプです。



2.新タイプの標識調査(もう一つの標識調査)

 現在は大型の野鳥に限られているが、無双網他で野鳥を捕獲して、衛星発信機を取り付け放鳥する。後は人工衛星が電波を受信し場所・時間を定時連絡してくれます。
 標識調査が、野鳥の渡りの調査と保護に役立(役立っ可能性が有る)った事例としてハクチョウ類・ガン類・ツル類、アホウドリ類他の海鳥の例が挙げられています。これらの成功例は、これらの渡り鳥に衛星向発信機をつけて、渡りの経路、距離、日数を日本に居ながらにして把握できるものです。


3.渡りの調査で新旧タイプはどこが違うのか

 大きな違いは、野鳥に付けるものが発信機と金属の足環、回収方法が受信データーだけと負傷・死体の違いとなります。
 一番嬉しい違いは、野鳥が、生きたままでデーターのみが回収されるか、負傷死体回収されるかの違いです。

しかし、もっと重要な違いがあります。

 新タイプの標識調査の例を簡単に説明し、同じ条件の旧タイプの事例と比較して、図で示して違いを確認してみます。

事例
所要日数 飛行距離 所要日数 飛行距離 所要日数 飛行距離
新タイプA 1日目 800Km 25日目 2100Km 26日目 2100Km
旧タイプB 3日目 800Km
旧タイプC 0日目 2100Km
旧タイプD 8日目 2100Km

新タイプA
 日本を旅立ち北北西に800
Km飛んである場所に到着、24日目まで周辺の小移動・滞在、25日目、再び1300Km北東に飛んで、26日目移動0Km 。ほとんど動かなくなった。

さて次ぎは旧タイプの説明。
網で捕まり足環を付けられ。
旧タイプB 日本を出発北北西800Km飛んで3日目死体で回収。
旧タイプC
日本を出発北北東に2100Kmの所で0日目負傷回収。
旧タイプD 日本を出発北北東2100Kmの所で8日目に死体回収。



4.分析して出てくる結論
新タイプA
 この野鳥は日本を旅立ち、北西に800Kmにある場所にいっきに飛んで、24日目まで長期滞在、更に1300Km北東に飛んでからは移動しなくなった。

 このことから、最初の場所は、渡りの中継地で栄養補給と疲れをとり、再び移動。26日以降は、大きく移動しない。これは、繁殖地に到着し、栄養補給と繁殖準備に入ったことが分かる。これ以外に、中継地では栄養補給するために小移動を繰り返すので、中継地内の移動範囲が大まかに保護必要区域を示すことになります。

 このように、衛星発信機をつけた鳥は、位置・時間が連続した線として定時連絡されるためにこのような解析が可能となります。
旧タイプ
 旧タイプB・旧タイプC・旧タイプDは、それぞれ回収日と回収場所がわかるが、放鳥地と回収場所を直線で結び、大まかにこのように動くという傾向を示すだけになる。
 極論すると、回収場所が繁殖地か、中継地か、ただ単に落鳥した場所かが特定できない。落鳥原因には、猛禽に襲われたり、つかれて衰弱して渡ったため落鳥したようなケースも含まれ、いろいろと原因を予想するしかない。
 旧タイプは、位置と時間が連続しておらず、ただ単に、放鳥地と回収地が直線で結ばれただけです。

 この方法で、野鳥の渡りの経路を解明するためには、点のデーターを積み重ねて、線のデーターを予想し、解析せざるを得ません。
多くの野鳥の犠牲異常に長い年月をかけてのみ、可能と予想されます。

さらに、中継地の重要度や保護区域の特定もほとんど出来ません。


旧タイプの標識調査について・・・樋口広芳氏の見解
 この旧タイプと新タイプの違いについて「鳥たちの旅」の著者樋口広芳氏は、次のように述べている、「鳥の渡りの経路は、通常、足輪や足輪を付けた鳥を別の場所で観察叉は捕獲する、という方法によって調べられている。渡り調査用の足輪は金属製で、固有の番号や回収された時の送付先が記されている。この足輪の付いた鳥が再捕獲されたり、死体で回収されれば、捕獲地間の移動がわかることになる。」
  「鳥たちの旅」 49pより引用。

「しかし、標識調査では、調査者の居ないところや捕獲、観察が困難なところでは、標識固体を追跡する事は出来ない。東アジアのように、政治的、経済的に難しい国が隣接する地域では、とくに再捕獲、再観察情報を得るのは難しい。また、いずれにしても、長距離にわたって連続的に追跡する事は、きわめて困難である」  同書 49p-50pより引用。 

この違いは一目瞭然です。しかし、新タイプにも、大きな問題があります。

5.新タイプの標識調査の問題点
問題点は大きく二つあります。

1)発信機が重いのです。
  野鳥の体重の4%に発信機の重量が制限されています。運用上は2%以内に押さえているとのことです(例のごとく、安全性は確認されていません。装着後、飛べなくなる鳥も一部発生するとのこと)
2)コストが高い
 「送信機代と衛星使用料を併せると、10固体200日の追跡には850万円ほどの研究費が必要となる。」 同書233pより引用。

これから出てくる結論は、

@使える野鳥は、大型の野鳥、大型シギ以上ぐらいの大きさの鳥にしか使えません。
A調査にかかる人員は少なくて済むが、衛星使用料等のコストが高い。

6.新タイプの安全性成果
5.1)で一部述べましたが、安全性は確認されていません。
 発信機の重量は、野鳥の体重の4%に制限されています。その根拠は経験値との事です。この為、発信機を取り付けてみると、飛べなくなるケースも出るようです。この場合、外して他の鳥に付けることになります。発信機を取り付けた多く(ほとんど)の鳥が、再び日本に戻ってきているとのことです。ここで注意すべきことは、やはり全ての鳥でなく、戻らない鳥も居ることです。
 また、発信機は指定期間の10ヶ月や1ヶ年が過ぎると自動的に腐食して外れることになっているとのこと(外れず付いている例もあります)。 これまた、難しい課題です。

成果
 ただし、かすみ網に比べ1回に10羽程度の放鳥のようですから、犠牲となる野鳥の数は激減します。さらに、得られるデーター・得られる成果は、具体的で保護に役立ちます。

7.結論
提案?
現在のデジタル技術は日進月歩です。現在この通信機の問題は軽量化です。もう十数g以下?になりつつあるのかもしれません。最大の課題は、電池の軽量化で、太陽電池との組み合わせで小型化をすすめることと思われます。
デジタル技術の進歩に期待し、かすみ網タイプの標識調査を休止したらいかがなものでしょうか。
10年も待てば薄くて軽い衛星発信機か
GPSタイプが開発されると思いますが。現在の、無差別、かすみ網バンディングよりよっほど安全で、自然保護に貢献する標識調査ができると思います。


参考文献                            「鳥たちの旅」 渡り鳥の衛星追跡  樋口広芳著  日本放送出版協会
2006年 1月 9日作成

山階鳥類研究所に期待すること 私のバンディンク問題
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